都市とホームレス
最初に「都市と都市」を読んだとき、設定は面白いと思ったけれど、そんなことあるのかなあ、ちょっと現実離れしすぎてる設定なんじゃないかなあ、と思った。
でもあるとき、実はふだんから僕らはこのスルースキルを使っていることに気がついた。
それは、ホームレスの人たちのこと。
僕らと彼らは、同じ空間にいるときでも、「都市と都市」のべジェルとウルコーマの人たちほどに離れている。
街を歩いている時、僕らは彼らの姿を見ているけれども、たぶん本当には見ていない。
絶対に声はかけないし、彼らが僕らに声をかけることもない。(一昔前は、「お兄さん、隣の駅まで行きたいんだけど」といって小銭をせびってくる人もいたけど、今ではすっかりそんなこともなくなった。)
彼らから僕らがどんなふうに見えているのかは想像もつかないのだけれど、少なくとも、彼らが見ている街と僕らが見ている街は、全然違うものだろう。
同じ場所にいながら違う国家にいるのと同じくらいに、あるいはそれ以上に。
少し前に、ホームレスの人たちが横になれないようにベンチが設計されていることが話題になった。
これは「ブリーチ」だ。
一方で、坂口恭平さんのように、ホームレスの中に入っていこうとする人もいる。
これも「ブリーチ」だ。
ホームレスのひとたちのことを考えるとき、本当にどうしたらよいのかわからなくなる。